2022年の自信と後悔を糧に、頂点に挑み続ける関菜々巳(東レ)

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米虫紀子

posted2023年2月16日 19時30分

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何度跳ね返されても、もがき、立ち向かう。東レアローズのセッター・関菜々巳は、失意から立ち上がり、再びその舞台“ファイナル”を目指す。

 昨年、2022年は関にとって飛躍の年だった。眞鍋政義監督が就任し新体制となった日本代表で、関は眞鍋監督が目指す高速コンビバレーを実践する司令塔として存在感を増していった。9月末からオランダとポーランドで開催された世界選手権では、全試合に先発出場し、日本のベスト8入りに大きく貢献した。

 試合を重ねるにつれ、関の表情に自信と充実感がみなぎるようになった。準々決勝ではフルセットの激戦の末にブラジルに惜敗したが、帰国後、こう語っていた。

「今シーズン、代表で上げきったこと、特に世界選手権では最後の準々決勝で、勝つことはできなかったんですけど、ブラジルと渡り合えたことは、すごく自信につながりました。今までは、自分がダメだ、自分がもっとできたら、というふうに思っていたんですけど、こんな自分でもやりきれた、という事実ができたことはすごく大きかった。『まだまだもっと自分ができたら』と思う部分もあるんですけど、それは今までみたいなネガティブな感情じゃなく、ポジティブに、『ここをもっとこうできれば良くなる』というふうに考えられています」

 2012年ロンドン五輪の銅メダリストで、現在は東レでコーチを務める元セッターの中道瞳は、昨年の代表活動を終えて東レに戻った関に、明らかな変化を感じていた。

「立ち居振る舞いも表情も変わりましたね。昨シーズンのリーグは、『もう疲れた』という感じで、心も体も疲労している様子だったんですけど、今は毎日、もちろん疲労はあるんですけど、バレーを純粋に楽しんでいるのが表情からもわかる。日本代表で世界選手権に出て、次はオリンピックというところが見えている分、モチベーションも高いし、『こういうこともできなきゃいけない』という自分の課題が明確にあるので、とても前向きに取り組めています。下の子たちに対する振る舞いや声かけも昨シーズンとは全然違うので、外に出て違う景色を見ることって、すごく大事なんだなと感じています」

そんな中、昨年12月の皇后杯で、東レは決勝に進出した。

 今年こそはいけるんじゃないか。関は内心、手応えを得ていた。

 関にとっては過去2年間で3度目の決勝の舞台だった。

 2020-21シーズンのVリーグは、負けなしの22連勝でファイナルに進出したが、一発勝負のファイナルでJTマーヴェラスに敗れて優勝に届かず、涙をのんだ。2021年の皇后杯でも、決勝で再びJTに敗れた。

 昨年5月の黒鷲旗で、東レは優勝を果たしたが、その時は代表選手が合宿に招集されていたため関は出場していなかった。そのせいで「私がいないほうが」という思いにさいなまれたこともあった。

 だが、その後の代表経験で自信をつかみ、チーム状況も、皇后杯大会中のミーティングをきっかけに好転し、「『今年こそはいけるぞ。絶対いくぞ!』と思っていました」と関は振り返る。

 しかし決勝では、選手たちの「勝ちたい」「今度こそは」という思いが硬さにつながり、NECレッドロケッツに第1セットを奪われた。第2セットを取り返し接戦には持ち込んだが、セットカウント1-3で敗れた。

「また最後、負けてしまって……。(決勝での)負けは、年々大きく感じるようになっている」と関はつぶやいた。

 これだけ何度も決勝まで勝ち上がっていること自体が快挙なのだが、決勝での敗戦は、重ねるごとにダメージが増す。しかも今回は関にとって大きな後悔を残した敗戦だった。

「最後の場面で、(石川)真佑に上げずに、他に上げて、エースに託せなかったというところが、あの試合の中では一番の後悔です」

“最後の場面”とは、第4セット23-23の場面。前衛のレフトには石川がいたが、関はミドルブロッカーとして入っていたルーキー深澤つぐみのライト攻撃を選択した。もちろん理由があった。

「もう明らかにブロック2枚が真佑のほうに行くのが見えたので、これなら(ライトは)1対1の勝負で行けると思ったんですけど……」

 結果的に、深澤のスパイクはNECのウィルハイト・サラの1枚ブロックに捕まった。

「エースとしてやってきた真佑が、欲しかった場面だよなって、振り返ればわかるんですけど……」と関は悔やむ。

 試合後の記者会見で、石川は悔しさを噛み締めながら言った。

「最後ああいったせった場面で、託してもらえなかったというところが、自分自身すごく悔しさとしてあるので、そこで最後、託してもらえる選手にならないといけないなと感じた。年明けからのリーグで、最後に託してもらえる選手になれるよう、しっかり自分自身をもう一度見直してやっていきたいなと思います」

エースの自覚と覚悟ゆえに発せられた石川のストレートな言葉が、隣に座っていた関に突き刺さった。

「あの時はもう後悔しかなかった。真佑も意図があってのことだと思う。言葉にする重みというのを、今シーズンずっと言っているから、それで自分自身にプレッシャーをかけている部分もあったんだろうなと思います。あの時はもう、本当にごめんねということしか言えなかった。私は選択したから、後悔ができるけど、真佑は打つことすらできなかったから……もどかしさしか残らないじゃないですか。でも『まだリーグがあるから、そこで頑張りましょう』というふうに言ってくれましたし、そのあとLINEもくれました。

 もう次は負けたくないという思いがすごく伝わってくる内容でした。あの場面で託してもらえなかったことについて、私を責める言葉じゃなくて、『私もそういう(託される)選手に成長しなきゃいけない』と書いてありました。一緒にずっとやってきて、ずっと負けてきたことも一緒に経験してきているからこその『次は勝ちたい』という言葉なので、もうリーグで頑張るしかないと思っています。エースの気持ちは私としてはわからないところもあるので、やっぱり話しながらやっていくしかないかなと。次はそこを逃さないためにも、日々の練習や、リーグの1戦1戦の中で、もっとコミュニケーションをとりながら、日々詰めていきたいと思っています」

 リーグが再開した年明けのトヨタ車体クインシーズ戦では最初、「負けたらどうしよう」という不安に襲われ、皇后杯での敗戦を引きずっているのだと気付いた。それでも、徐々に元の自分を取り戻し、前に進んできた。

 セッターは結果で論じられてしまうつらさがある。これまで逆に、石川やクラン・ヤナのレフトにトスが偏って敗れた試合もあった。本来、関はミドルを絡めた大胆なトス回しが持ち味だが、大胆にいく場面と、エースに託す場面、最後に勝利につなげるためのその見極めを、関は苦しくとも真摯に悩み、答えを探し続ける。

「それさえも、もうちょっと楽しみながらできたらいいかなって思います」と、関は自分に言い聞かせるように言った。

 チームとしても、勝ちたい思いを持ちながら、いかに楽しめるかが勝負どころではカギになると感じている。

「勝ちたいという思いを、どれだけみんなが同じ熱量で持ち続けられるか。チームの“勝ちたい”思いの平均値を上げたいんです。全員が、もっと勝ちたいという思いを持ちながら毎週戦えるかどうかがすごく大事だと思っています。でもそれと同時に、もしまずファイナルに行けたなら、次こそはその舞台を楽しみたい、と思っています」

 

 今は、リベンジの権利をつかむための戦いの真っただ中。現在、東レは16勝6敗で2位につけている。

 レギュラーラウンドは今週末から3レグがスタートする。ファイナルステージに進出できるのは12チーム中4チーム。現在1位JTから5位NECまでの勝ち数差はわずか3で、6位以下のチームにも可能性があるという混戦だ。今週末には2位東レ対4位久光スプリングス(18日)、1位JT対2位東レ(19日)など、上位陣による注目の対決が行われる。ファイナルステージ進出をかけた戦いが、いよいよ佳境を迎える。


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2月はYMITアリーナで開催の「東レ vs 久光」、「東レ vs JT」をはじめ、4試合を放送。