米虫紀子 の記事
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「考え方が変わるだけで、プレーもこんなに変わる」成功体験を得た山田二千華(NEC)が期待される理由とは
「過去イチのプレーでした」 NECレッドロケッツのミドルブロッカー・山田二千華は、昨秋オランダとポーランドで開催された世界選手権を振り返り、こう笑っていた。 日本がベスト8進出を果たした世界選手権で、山田は大きな存在感を発揮した。特に活躍が際立ったのが、強豪・ブラジルとの2試合だった。1次ラウンドの対戦では、劣勢だった第4セット12-14から、山田のサーブで揺さぶって6連続ブレイクにつなげ、一気に逆転。ブラジルからの5年ぶりの勝利に貢献した。ブラジルとの再戦となった準々決勝では、フルセットの末に惜敗したものの、山田は7本ものブロックポイントを挙げ、計19得点をたたき出した。大会を通して、大きな成長を見せた。 数字だけでなく、積極的にトスを呼び込んだり、サーブで攻めたり、得点を決めて喜びを全身で表現するなど、アグレッシブな姿勢もチームに好影響をもたらした。 周囲も山田の変化を感じていた。日本代表の主将で、NECのチームメイトでもある古賀紗理那はこう語っていた。「変わったなと思いますね。オフェンスの意識もすごく高くなりましたし、とても成長しているなと感じます。人って、きっかけがあれば変わるので、何かきっかけがあったのかもしれないですね」 山田にとって、そのきっかけの一つとなったのが、昨年の日本代表で眞鍋政義監督にかけられた言葉だった。「山田に必要なのはプラス思考。そこが変われば、お前は絶対に変わる」 ことあるごとにこう説かれた。「期待されているのを感じたし、そういう言葉をかけてもらって、スイッチを切り替えられたかなと思います」と山田は振り返る。 山田は2019年に行われたU20世界選手権優勝メンバーの1人。2021年の東京五輪にも21歳で選出された。だが五輪ではわずかな出場に終わり、悔しさを噛み締めた。「自分から何もできなかった。オフェンスも積極的に行けなかったし、全部がマイナスな感じだった。自分から何かしらアクションを起こさないと、周りはわかってくれないのに。そんな自分が嫌すぎて、五輪後は、絶対に今までの自分には戻らないように、と意識するようになりました。変わらないとダメだなと思いました」 変わろうとしていた山田に、眞鍋監督の“プラス思考のススメ”は響いた。 世界選手権に臨む時には、「こういう舞台はなかなか経験することができないので、出し切れなかったらもったいない。損しないように、自分ができることを出し切ろう」とプラス思考で考えられるようになっていた。 そうして臨んだ大舞台で、「過去イチ」のプレーを発揮できたことは、大きな成功体験となった。「以前は、『こうしちゃったらどうしよう』みたいなマイナスの考えのほうが多かったんですけど、そういうことを考えていても次につながらないなと、すごく感じた。世界選手権を通して、そういうものはいらないもの、ムダなものだとわかった。考え方が変わるだけで、プレーもすごく変わるんだなと、自分自身、ものすごく実感しました」 帰国後のVリーグでは、特に攻撃面で自信を持ってコートに立てるようになったという。「世界選手権で、自分自身、オフェンスが強みになった部分があったので、今季NECでも、2枚時(前衛の攻撃枚数が2枚の時)も活躍できているのかなと。(セッターの)前のクイックも打てるし、ワンレグ(ライト側のブロード攻撃)も打てるという、攻撃の幅があるミドルを目指してやっていきたいと思っています」 メンタル的にも、「負のオーラにならないように」自分自身をコントロールすることを意識していると語っていた。 NECは、昨年12月の皇后杯で優勝を飾った。ただその大会中、NECの金子隆行監督は山田についてこう話していた。「代表の頃に比べたら、まだ眠ってるんじゃないですかね。あのブラジル戦の活躍を見たら、そう感じてしまいますよね。もちろん一生懸命やっているんですけど、あれを見せたからには、あれ以上のものが期待されていくというのはしょうがないと思う。彼女にはまだまだ無限の可能性があるので。ポテンシャルは非常に高いし、まだ22歳(当時)。ここでどれだけ脂をのせていけるか。代表、自チーム関係なく、環境面を自分でどれだけ作っていけるかによって、もっと成長していくんじゃないかと思う。うちのミドルはVリーグの中でもトップクラスだと思っているので、その中心として、期待していきたいなと思っています」 代表、NECでチームメイトのミドルブロッカー・島村春世も「(世界選手権は)覚醒じゃないんです。山田はもとからあれだけできる選手。だからこそ、今ちょっと足りないよね、というところがある。そのスイッチは、外から入れてもらうんじゃなくて、自分で入れなくちゃいけない。まだまだできます、あの子は」と愛ある叱咤激励を送っていた。 1月に再開されて以降のVリーグでは、コンディションの様子を見ながらの起用となっているが、出場した際には高いスパイク決定率を残し存在感を発揮している。ファイナルステージ進出がかかる残り5試合とその先は、山田のさらなる活躍に期待がかかる。 ファイナルステージに進出できるのは上位4チームのみ。現在NECは5位で、4位久光スプリングスとの差はわずか1勝。終盤戦は、今季チームとして徹底的に磨き、皇后杯優勝に押し上げたサーブ力がカギになりそうだ。レギュラーラウンドの最終レグである3レグを迎える前、島村は終盤戦の戦いのポイントについてこう話していた。「やっぱりサーブは引き続き、自分たちの強みとしてやっていくことと、サーブで崩して相手がCパスになった時のブロックディフェンスというのも自分たちの武器だと思うので、そこからの切り返しでどれだけ点数を取れるかが重要。そこの精度はもっと追求できると思う。自分たちはチャレンジャーなので、どんなことにもトライしていくし、日々成長できるような3レグにして、優勝を、目指すんじゃなくて“獲るんだ”という、そこの目標はぶれずにやっていきたい」 古賀も「私たちの順位的に、厳しい戦いがこれから先続いていきますが、そういう試合さえも楽しんで、自分たちが成長する場だという気持ちでプレーすることが、自分たちが強くなっていく上ですごく大切なこと」と語っていた。「負けられない」と、否が応でもプレッシャーはかかるが、それさえも楽しみ、成長につなげていく。 今週末、NECはジップアリーナ岡山で行われる2位JTマーヴェラス、10位岡山シーガルズとの重要な2連戦に臨む。この他、各地で繰り広げられるファイナルステージ進出をかけた熱戦から目が離せない。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーGAORA SPORTSでは、VリーグDIVISION1の男女好カードを生中継中心にお届けしている。3月は「JT vs NEC」、「岡山 vs NEC」など、ジップアリーナ岡山で開催の4試合を当日録画放送。 「Vリーグ2022-23」番組ページ
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米虫紀子 2023年3月8日 17時30分 -
2022年の自信と後悔を糧に、頂点に挑み続ける関菜々巳(東レ)
何度跳ね返されても、もがき、立ち向かう。東レアローズのセッター・関菜々巳は、失意から立ち上がり、再びその舞台“ファイナル”を目指す。 昨年、2022年は関にとって飛躍の年だった。眞鍋政義監督が就任し新体制となった日本代表で、関は眞鍋監督が目指す高速コンビバレーを実践する司令塔として存在感を増していった。9月末からオランダとポーランドで開催された世界選手権では、全試合に先発出場し、日本のベスト8入りに大きく貢献した。 試合を重ねるにつれ、関の表情に自信と充実感がみなぎるようになった。準々決勝ではフルセットの激戦の末にブラジルに惜敗したが、帰国後、こう語っていた。「今シーズン、代表で上げきったこと、特に世界選手権では最後の準々決勝で、勝つことはできなかったんですけど、ブラジルと渡り合えたことは、すごく自信につながりました。今までは、自分がダメだ、自分がもっとできたら、というふうに思っていたんですけど、こんな自分でもやりきれた、という事実ができたことはすごく大きかった。『まだまだもっと自分ができたら』と思う部分もあるんですけど、それは今までみたいなネガティブな感情じゃなく、ポジティブに、『ここをもっとこうできれば良くなる』というふうに考えられています」 2012年ロンドン五輪の銅メダリストで、現在は東レでコーチを務める元セッターの中道瞳は、昨年の代表活動を終えて東レに戻った関に、明らかな変化を感じていた。「立ち居振る舞いも表情も変わりましたね。昨シーズンのリーグは、『もう疲れた』という感じで、心も体も疲労している様子だったんですけど、今は毎日、もちろん疲労はあるんですけど、バレーを純粋に楽しんでいるのが表情からもわかる。日本代表で世界選手権に出て、次はオリンピックというところが見えている分、モチベーションも高いし、『こういうこともできなきゃいけない』という自分の課題が明確にあるので、とても前向きに取り組めています。下の子たちに対する振る舞いや声かけも昨シーズンとは全然違うので、外に出て違う景色を見ることって、すごく大事なんだなと感じています」 そんな中、昨年12月の皇后杯で、東レは決勝に進出した。 今年こそはいけるんじゃないか。関は内心、手応えを得ていた。 関にとっては過去2年間で3度目の決勝の舞台だった。 2020-21シーズンのVリーグは、負けなしの22連勝でファイナルに進出したが、一発勝負のファイナルでJTマーヴェラスに敗れて優勝に届かず、涙をのんだ。2021年の皇后杯でも、決勝で再びJTに敗れた。 昨年5月の黒鷲旗で、東レは優勝を果たしたが、その時は代表選手が合宿に招集されていたため関は出場していなかった。そのせいで「私がいないほうが」という思いにさいなまれたこともあった。 だが、その後の代表経験で自信をつかみ、チーム状況も、皇后杯大会中のミーティングをきっかけに好転し、「『今年こそはいけるぞ。絶対いくぞ!』と思っていました」と関は振り返る。 しかし決勝では、選手たちの「勝ちたい」「今度こそは」という思いが硬さにつながり、NECレッドロケッツに第1セットを奪われた。第2セットを取り返し接戦には持ち込んだが、セットカウント1-3で敗れた。「また最後、負けてしまって……。(決勝での)負けは、年々大きく感じるようになっている」と関はつぶやいた。 これだけ何度も決勝まで勝ち上がっていること自体が快挙なのだが、決勝での敗戦は、重ねるごとにダメージが増す。しかも今回は関にとって大きな後悔を残した敗戦だった。「最後の場面で、(石川)真佑に上げずに、他に上げて、エースに託せなかったというところが、あの試合の中では一番の後悔です」“最後の場面”とは、第4セット23-23の場面。前衛のレフトには石川がいたが、関はミドルブロッカーとして入っていたルーキー深澤つぐみのライト攻撃を選択した。もちろん理由があった。「もう明らかにブロック2枚が真佑のほうに行くのが見えたので、これなら(ライトは)1対1の勝負で行けると思ったんですけど……」 結果的に、深澤のスパイクはNECのウィルハイト・サラの1枚ブロックに捕まった。「エースとしてやってきた真佑が、欲しかった場面だよなって、振り返ればわかるんですけど……」と関は悔やむ。 試合後の記者会見で、石川は悔しさを噛み締めながら言った。「最後ああいったせった場面で、託してもらえなかったというところが、自分自身すごく悔しさとしてあるので、そこで最後、託してもらえる選手にならないといけないなと感じた。年明けからのリーグで、最後に託してもらえる選手になれるよう、しっかり自分自身をもう一度見直してやっていきたいなと思います」 エースの自覚と覚悟ゆえに発せられた石川のストレートな言葉が、隣に座っていた関に突き刺さった。「あの時はもう後悔しかなかった。真佑も意図があってのことだと思う。言葉にする重みというのを、今シーズンずっと言っているから、それで自分自身にプレッシャーをかけている部分もあったんだろうなと思います。あの時はもう、本当にごめんねということしか言えなかった。私は選択したから、後悔ができるけど、真佑は打つことすらできなかったから……もどかしさしか残らないじゃないですか。でも『まだリーグがあるから、そこで頑張りましょう』というふうに言ってくれましたし、そのあとLINEもくれました。 もう次は負けたくないという思いがすごく伝わってくる内容でした。あの場面で託してもらえなかったことについて、私を責める言葉じゃなくて、『私もそういう(託される)選手に成長しなきゃいけない』と書いてありました。一緒にずっとやってきて、ずっと負けてきたことも一緒に経験してきているからこその『次は勝ちたい』という言葉なので、もうリーグで頑張るしかないと思っています。エースの気持ちは私としてはわからないところもあるので、やっぱり話しながらやっていくしかないかなと。次はそこを逃さないためにも、日々の練習や、リーグの1戦1戦の中で、もっとコミュニケーションをとりながら、日々詰めていきたいと思っています」 リーグが再開した年明けのトヨタ車体クインシーズ戦では最初、「負けたらどうしよう」という不安に襲われ、皇后杯での敗戦を引きずっているのだと気付いた。それでも、徐々に元の自分を取り戻し、前に進んできた。 セッターは結果で論じられてしまうつらさがある。これまで逆に、石川やクラン・ヤナのレフトにトスが偏って敗れた試合もあった。本来、関はミドルを絡めた大胆なトス回しが持ち味だが、大胆にいく場面と、エースに託す場面、最後に勝利につなげるためのその見極めを、関は苦しくとも真摯に悩み、答えを探し続ける。「それさえも、もうちょっと楽しみながらできたらいいかなって思います」と、関は自分に言い聞かせるように言った。 チームとしても、勝ちたい思いを持ちながら、いかに楽しめるかが勝負どころではカギになると感じている。「勝ちたいという思いを、どれだけみんなが同じ熱量で持ち続けられるか。チームの“勝ちたい”思いの平均値を上げたいんです。全員が、もっと勝ちたいという思いを持ちながら毎週戦えるかどうかがすごく大事だと思っています。でもそれと同時に、もしまずファイナルに行けたなら、次こそはその舞台を楽しみたい、と思っています」 今は、リベンジの権利をつかむための戦いの真っただ中。現在、東レは16勝6敗で2位につけている。 レギュラーラウンドは今週末から3レグがスタートする。ファイナルステージに進出できるのは12チーム中4チーム。現在1位JTから5位NECまでの勝ち数差はわずか3で、6位以下のチームにも可能性があるという混戦だ。今週末には2位東レ対4位久光スプリングス(18日)、1位JT対2位東レ(19日)など、上位陣による注目の対決が行われる。ファイナルステージ進出をかけた戦いが、いよいよ佳境を迎える。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーGAORA SPORTSでは、VリーグDIVISION1の男女好カードを生中継中心にお届けしている。2月はYMITアリーナで開催の「東レ vs 久光」、「東レ vs JT」をはじめ、4試合を放送。 GAORA SPORTS「Vリーグ2022-23」番組ページ
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米虫紀子 2023年2月16日 19時30分 -
ファイナルステージ進出を目指す東レ。髙橋健太郎が見つめ直した「コートに立つ自覚と責任」
2022-23シーズンV.LEAGUE DIVISION1 MEN(V1男子)は、レギュラーラウンド後半戦に突入した。ファイナルステージ進出争いは、例年以上の大混戦となっている。上位7チームが僅差でひしめき合っており、わずか4つのファイナルステージ進出枠をめぐり、今週末も激しい戦いが繰り広げられそうだ。 特に熱い試合が期待されるのが、東レアローズ(4位・13勝7敗)対ジェイテクトSTINGS(6位・11勝9敗)戦。東レにとっては、昨年12月に開催された天皇杯決勝のリベンジを果たすチャンスとなる。 その天皇杯の大会中、優勝に向けて誰よりも強い意気込みを語っていたのが東レのミドルブロッカー・髙橋健太郎だった。 「昨年(2021年)すごく悔しい思いをしたので。昨年の天皇杯は、藤井(直伸)さんと、優勝するという目標を掲げてやっていたんですけど、準決勝でウルフドッグス名古屋に負けてしまった。あの時は本当に悔しくて、その晩に藤井さんと『もう絶対に次は負けたくない。来年絶対リベンジしよう』という話をしていたので、この大会は僕にとってすごく大事な大会。もう絶対負けたくないし、負けるわけにはいかないんです」 東京五輪日本代表セッターの藤井は、東レでは主将も務め、2021年の天皇杯でも核となってチームを牽引した。だが昨年2月、胃がんを患っていることを公表し、コートを離れ治療に専念している。 それでも東レやチームメイトのことを気にかけ、髙橋も頻繁に連絡を取り合っているという。「藤井さんは僕のメンターです。まめに連絡をくれて、毎回熱い言葉をかけてくれるので、メンタル的にすごく助けてもらっています。この天皇杯の前も『絶対、迷いなくやることだよ』というアドバイスをもらったから、もう迷いはないし、絶対に優勝するしかないと思っている。藤井さんに対するギフトが、モチベーションだと思うんです。僕がこうやって言葉をかけてもらったり、いろいろなものをもらっている分、僕はモチベーションを上げて、優勝することで返す。それが彼にとってはすごくいい薬になるんじゃないかなと思うので」 昨年のネーションズリーグなどで日本代表としても活躍した髙橋は、身長202cmの高さに加え、パワーや身体能力でも海外の大型ミドルブロッカーに匹敵するスケールがある。 腰の怪我のため、10月に開幕したVリーグの序盤戦は出場機会が少なかったが、天皇杯に向けてはコンディションも上がり、先発出場。東レは、2回戦で全日本インカレ優勝の筑波大、準々決勝で堺ブレイザーズ、準決勝で東京グレートベアーズに勝利し、前年届かなかった決勝進出を果たした。 だが決勝では、ジェイテクトの強力なサーブに終始おされ、やりたいことが何もできないまま、セットカウント0-3で敗れた。「今日は本当に情けないの一言」。 開口一番に髙橋はそう口にした。「せっかく決勝に行くことができて、自分たちが目指している優勝に一歩近づけたんですけど、そのチャンスをムダにしてしまったというか、不甲斐ない結果になってしまって、応援してくださった方々に申し訳ない気持ちが強いです。今日のパフォーマンスというのは、ちょっと、僕の中でも思うところがいろいろあります。プレーしたくてもできない選手がいる中で、僕たちは代表して東レのコートで戦っている。その自覚と責任が、足りないことはないんですけど、そういうところがもっと出せれば。すごく自分たちの弱いところが出ているなと感じました」 持てる力をぶつけて敗れたというよりも、何も出し切れないまま終わったという、不完全燃焼の悔しさがあふれた。 アウトサイドの富田将馬や小澤宙輝も、現実を受け入れられないでいるような表情で「何もできなかった」「手も足も出なかった」と絞り出した。 髙橋は“チーム”で戦う必要性を強調した。 「うちの武器はサーブなので、サーブで崩して、ジェイテクトの両サイドの柳田(将洋)選手、西田(有志)選手のスパイクを封じたかったんですけど、相手のサーブレシーブが耐えていたし、しっかり返ったところでセッターの関田(誠大)選手がしっかり両サイドをうまく使って、速い展開でコンビを組まれた。その中で僕たちのブロックディフェンスの、どこを抜かせてどこを拾う、ここはブロックで触らないといけない、というパターンがすごく後手に回った。試合中に何回も何回も、『ここやられすぎているから対応しよう』という感じで、追いつかなかった。 チームとしてトータルディフェンスで試合をしなきゃいけない相手に対して、個々のブロックで試合した結果、どこも止められなかったし、どこも拾えなかった。今後の試合もそうですけど、個の能力でどうにかしようとするんじゃなくて、チームでやらないと。今日の反省は本当にそこだなと思います」 悔しい敗戦だったが、タレント揃いのジェイテクトに対して、やるべきことが明確に見えた試合でもあった。 そしてそのリベンジのチャンスは、まもなくやってくる。 1月28、29日にウィングアリーナ刈谷で行われるジェイテクト対東レ。現在11勝9敗の6位で、ファイナルステージ進出のためには上位チームを蹴落としていかなければならないジェイテクトにとっても、負けられない試合だ。 東レが狙い通りサーブからのトータルディフェンスでジェイテクトの攻撃力を封じるのか、それとも再びジェイテクトがサーブと攻撃で主導権を握るのか。互いの持ち味がぶつかり合う白熱の攻防は見逃せない。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーGAORA SPORTSでは、VリーグDIVISION1の男女好カードを生中継中心にお届けしている。1月28、29日の「ジェイテクト vs 東レ」をいずれも午後4時から生中継するほか、2月は女子の4試合を放送。 GAORA SPORTS「Vリーグ2022-23」番組ページ
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米虫紀子 2023年1月26日 13時00分 -
新天地でもタイトルを獲得。柳田将洋(ジェイテクト)の新たな挑戦
「僕はああいうシチュエーションが好きなんだなーと、改めて感じました」 昨年12月に行われた天皇杯全日本バレーボール選手権大会を制したジェイテクトSTINGSのアウトサイドヒッター・柳田将洋は、準決勝の激戦の後、こう語っていた。「ああいうシチュエーション」とは、準決勝第3セット終盤の崖っぷちの状況のこと。 ジェイテクトは、JTサンダーズ広島に1、2セットを連取され、第3セットも22-24とマッチポイントを握られた。ここで、柳田がレフトから放ったスパイクがアウトと判定され、ゲームセットかと思われた。しかし酒井大祐監督代行がチャレンジ(映像判定)を要求すると、柳田の打ったボールは、JT広島のミドルブロッカー・小野寺太志の左手の小指に触れていた。 ジェイテクトの得点が認められ23-24。その後、JT広島にミスが出てデュースに持ち込んだ。とはいえ、まだストレート負けの危機を脱したわけではない。 25-25の場面で、柳田がサーブに向かった。JT広島のロサノ・ラウル監督がタイムアウトを要求して間を取るが、そんなことはおかまいなしに、タイムが明けると、柳田は躊躇なく腕を振り抜いた。強烈なサーブがレシーバーを弾き飛ばし、つながれたボールはネットを越えず、26-25とジェイテクトが逆転。次のサーブでも相手を崩してチャンスを作り、オポジットの西田有志がスパイクを決めてブレイクし27-25。崖っぷちから、セットを奪取した。 「やっぱりああいう状況で、僕のパーソナリティとしては燃えるほうですし、そこで結果的にこういうふうに(試合を)ひっくり返すことができて、今は、なんというか、形容しがたいぐらいの気持ち。『これがあるからやめられないな』って。『ああいう状況を楽しめる性格でよかったなー』と思うし(笑)、チーム全体としてもそういうことを楽しんで勝負できるようなチームだなと改めて思いました」 試合後は、丁寧な言葉ながらも興奮冷めやらぬ様子が伝わってきた。 第4セットの立ち上がりも柳田のサーブで崩してブレイクにつなげ、完全に流れをつかんだジェイテクトが4、5セット目も連取し、劇的な逆転勝利を収めた。 決勝では東レアローズを3-0で下して優勝し、柳田はMVPに選ばれた。 昨シーズン、サントリーサンバーズの一員としてVリーグと黒鷲旗の優勝を果たしていた柳田にとって、この天皇杯優勝は2022年の三冠目。昨年の国内タイトルをすべて制したことになる。 柳田はドイツ、ポーランドのリーグで3シーズン腕を磨いた後、2020年に古巣のサントリーに復帰し2年間プレー。ここぞという場面で流れを引き寄せる勝負強いサーブやスパイクはもちろん、ラリー中のボールの処理やつなぎのトスを丁寧に正確にこなすなど、コート内をスムーズに回す数字には表れないプレーでも、チームのVリーグ連覇に貢献した。 ただ、柳田自身には葛藤もあった。 サントリーでは柳田が復帰する以前から、サーブレシーブはリベロの鶴田大樹(昨季のリーグ後に引退)と守備を得意とするアウトサイドの藤中謙也が中心を担っており、特にフローターサーブに対しては2人で取るシフトを敷き、柳田は攻撃に比重を置くかたちとなっていた。だが、攻撃においては身長218cmのオポジット、ムセルスキー・ドミトリーという絶対的な存在がいて、重要な場面ではムセルスキーに託すという戦い方ができあがっていた。 昨季までのサントリーでの2年間、柳田の口から「自分の存在意義」という言葉を幾度も聞いた。自分は勝利に貢献できているのか、チームの中での自分の役割は何なのかという疑問、葛藤を抱えていた。 今季、その疑問を晴らすためにも、新たな環境に触れるためにも、ジェイテクトへの移籍を決断した。 ジェイテクトでは、基本的にフローターサーブのサーブレシーブにも入り、攻撃でも中心を担っている。海外リーグでは守備的な役割を求められていたこともあり、その経験を活かせている。「当たり前のことなんですけど、しばらくやっていなかったので、個人的にはフレッシュな気持ちで取り組めています」と充実感を漂わせていた。 一方で、オポジットの西田が体調不良でリーグを欠場していた時期には、柳田がオポジットに入り勝利に導いた試合もあった。元来、頼られれば頼られるほど力を発揮する選手だ。 天皇杯でも攻撃に守備にフル稼働し、「結構カロリー使います」と苦笑しながらも、「でも楽しいですよ、めっちゃ。1本目にさわれるっていうのは、改めて、アウトサイドとしてやるべき仕事だなと思う」と、心地よさそうに汗をぬぐった。 今季のジェイテクトは、イタリア・セリエAから2季ぶりに復帰した西田や、柳田、セッターの関田誠大、アウトサイドのウルナウト・ティネと、主力に新加入の選手が多いこともあり、年内のVリーグではまだチームが噛み合わず、6勝8敗の6位と苦しんだ。だが12月の天皇杯では、試合をこなすごとにチームが噛み合い、武器であるサーブで攻めて相手の攻撃の選択肢を減らし、堅いディフェンスから高い攻撃力でブレイクするという目指す展開が増えていった。 西田は大会中、「今までは個々で戦っていたけど、やっと、このメンツでのジェイテクトになってきた」と語り、優勝後には「準決勝の3セット目のチャレンジからチームが一気に切り替わった。リーグでは何かが噛み合っていなくて、なかなか勝ち星を挙げられていなかったけど、一気に歯車が噛み合って、うまく回り出した」と手応えをにじませた。 柳田もチームの変化をこう表現した。「チームの関係性やシステムを少しずつ作り上げられて、それが今大会の結果に結びついたなという感じ。やっぱり何人も初めての選手が加わると、バレーは間の関係性だったり、1つのボールのゆくえを何人で追うのかとか、次のボールはどの条件に持っていくのかとか、目に見えない、数字に表れないところが点に細かく関係するスポーツなので難しい。そこが少しずつ噛み合うことによって、全力で打てる選手が2人や3人になったり、その後のフォローができたりする。まだまだ発展途上ですが、緩やかに関係を築けてきているのかなと思います」 1月からのVリーグに向けては、「巻き返して(ファイナルステージに進出できる)トップ4に並べるように、チームの1人として考えてやっていきたい」と意気込んだ。 Vリーグは1月7日に約1ヶ月ぶりに再開。1月14、15日には、天皇杯準決勝で激戦を繰り広げたジェイテクトとJT広島の再戦が早くも実現する。 JT広島も、年内のリーグは6勝8敗の7位と苦戦したが、こちらも新加入のアメリカ代表ラッセル・アーロン、中国代表の江川が天皇杯では本来の力を発揮し始め、チーム状態は上がっている。 ファイナルステージ進出へ、リーグでも浮上のきっかけをつかみたい2チームの戦いに注目だ。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーGAORA SPORTSでは、VリーグDIVISION1の男女好カードを生中継中心にお届けしている。1月は14、15日の「ジェイテクト vs JT広島」や、28日、29日の「ジェイテクト vs 東レ」をはじめ10試合を生中継。 GAORA SPORTS「Vリーグ2022-23」番組ページ
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米虫紀子 2023年1月6日 15時00分