第94回選抜高等学校野球大会 2回戦を終えて

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小関順二

posted2022年3月27日 18時30分

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勝負を決したのは“走塁力”

 2回戦で最初に注目したのは「九州国際大付 対 広陵」戦。広陵にはプロのスカウトが注目する内海優太(3年)、真鍋慧(2年)、九州国際大付には佐倉侠史朗(2年)、黒田義信(3年)というスラッガーがいて、私の周囲には強打の応酬を期待する声が多かったが、勝負を決めたのは走塁だった。私が俊足の基準にするのは打者走者の各塁到達タイム。具体的には「一塁到達4.3秒未満、二塁到達8.3秒未満、三塁到達12秒未満」で、これを成し遂げたのは広陵の0人に対して九州国際大付は3人(7回)。とくに目立ったのが1番黒田で、第1打席で二塁打を放ったときの二塁到達タイムが7.66秒で、第3打席の内野安打のときの一塁到達タイムが3.87秒、第5打席の三塁打のときの三塁到達タイムが11.06秒というとんでもない記録ばかりだった。この走力に左腕、香西の130キロに満たない〝遅球″を駆使した超絶技巧が絡み、九州国際大付が優勝候補の広陵を一蹴した。

息詰まる投手戦となった「木更津総合 対 金光大阪」

 同じく1点を争う投手戦になった「木更津総合 対 金光大阪」戦も印象に残った。金光大阪が6回裏に1点、木更津総合が8回表に1点入れ、試合は今大会6回目の延長戦に突入。勝負は13回裏、2点を追う金光大阪が2四球、2死球で3点を入れ逆転サヨナラ勝ちするが、4継投した木更津総合に対して先発の古川温生(3年)は1人で延長13回を投げ続けた。

 木更津総合が5安打、金光大阪が7安打とたいして変わらないが、投手が与えた四死球は木更津総合の11(6四球、5死球)に対して金光大阪は4だった。肩・ヒジの負担になる延長13回(投球数160)の完投は美談にできないが、古川の危なげのないピッチングを見ればマウンドに送り続けた横井一裕監督の気持ちは理解できる。

「走力と工夫」が光った国学院久我山

「高知 対 国学院久我山」戦は国学院久我山の外野陣の守りに注目した。大野良太(3年・左翼手)、齋藤誠賢(3年・中堅手)、木津寿哉(2年・右翼手)の3人が捕手のサインを確認すると同時に大きく右あるいは左に動くのだ。右(ライト)方向に動くときは右打者の外角寄り、左(レフト)方向に動くときは内角寄り(左打者のときはその反対)にボールがくることが多かったが、時々〝逆球″もあり、打者は配球を絞るのが難しかっただろう。

 全力疾走でも目立った。「一塁到達4.3秒未満~」をクリアしたのは高知の2人(2回)に対して国学院久我山は3人(6回)。投手が投げ、打者が打つ以外の「走力と工夫」でも高知を上回り、初の準々決勝進出を決めた。

“自分のタイミング”で呼び込む星稜各打者

「星稜 対 大垣日大」戦で注目したのは星稜各打者のタイミングの取り方。打者にとってタイミングの取り方は「最も重要」と言ってもいい。投手がステップする段階で始動するのが普通だが、星稜の1番永井士航(3年)、4番若狭遼之助(3年)、5番角谷飛雅(3年)たちは早い段階で一本足ないしはすり足で始動、投手の投げるタイミングに合わせてステップしていた。これは投手の動きに惑わされないための工夫で、監督の意図がきちんと各打者に伝わっていると思った。遅い球を武器にする大垣日大の先発、五島幹士(3年)の技巧にも惑わされず3回までに4安打、3得点を重ね主導権を握ったが、各打者の中で最も注目したのが若狭。始動の動き、ステップの動きに急いでいる様子がまったくないのだ。投手のボールを放すリリースまでの動きをじっくり見定め、全球種を自分のタイミングで呼び込み、3回裏には五島が投じた122キロのスライダーを完璧に捉えてレフトスタンドに放り込んだ。

 星稜の先発、マーガード真偉輝キアン(3年)は6回限りで降板するまで最速141キロのストレートにカットボールを主体とする変化球を交えて大垣日大打線を翻弄した。テークバックのとき右腕が背中のほうまで入るピッチングフォームはコントロール難を思わせたが、6回までに与えた四球2、与死球1はいい意味で予想を裏切った。

接戦に終止符を打つ“投手心理”を熟知したバッティング

「市和歌山 対 明秀日立」戦は米田天翼(市和歌山3年)と猪俣駿太(明秀日立3年)が息詰まるような投手戦を演じ、9回表が終了するまで1対1のスコア。米田はストレートの最速が143キロと言ってもほとんどが130キロ台で、1回戦の花巻東戦で佐々木麟太郎(2年)を圧倒したピッチングを予想した明秀日立各打者は面食っただろう。猪俣のピッチングも技巧的だった。左肩が早く開くピッチングフォームはたとえば右打者から見れば外角にボールが集まりそうに見えるが、6回裏の2死満塁で迎えた6番田嶋優汰(2年)に対して外角を主体に攻めてボールカウントを2-2とし、5球目に内角低めを突いて見逃しの三振に仕留めたピッチングは見事だった。

 猪俣のもう一つの特徴は低めにボールが集まること。体が早く開いてもリリースでボールを潰している(押さえ込んでいる)のでボールが低めに集まっていた。ピッチングフォームからは予想できない球筋で、市和歌山各打者は最後まで的を絞り切れていないように見えた。この猪俣からサヨナラ安打を放ったのが投手の米田。2-1から投じられた126キロのフォークボールを右中間に打ち返したバッティングは投手心理を熟知した「投手」ならではの一打と言っていいだろう。